前回 の続き。20位から1位まで。
20. Lana Del Rey / Born To Die [Interscope, Polydor, Stranger]
昨年最大のハイプ、整形、ペプシ味。と話題の尽きなかったLana Del Reyのデビューアルバム。彼女の容姿と、この抑揚が少なく気怠い声を聴いていると、映画『パリ・テキサス』で赤いモヘアのセーターを着ていたナスターシャ・キンスキーが思い浮かぶ。こんなしょぼくれた映画に神々しい美女が…!このホームレス紛いの男にこんな妻が…!と突っ込まずには居られなかった思い出の映画なのですが、ラナ・デル・レイに惹かれるのも、2012年の音楽シーンにオールドスクールな楽曲と退廃的な歌声でもって現れた、彼女の「場違い感」にあるのでしょう。当初はクドく感じられた男の合いの手なんかも、今ではすっかり慣れたもので、素直によいアルバムだと思える様になりました。
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Lana Del Rey - Summertime Sadness
19. Ango / Serpentine [LuckyMe]
今年のR&Bといえば、Frank Ocean/Channel Orangeなんでしょうけど、私にとってはこれでした。という訳でカナダのR&Bメン、ANGOことAndrew Gordon Macphersonのミックステープ。これも新世代なアンビエントR&B?なんだろうけど、ディスコっぽい感じもある軽快さも感じられるトラックに、透明感のあるANGOのボーカルという組み合わせは気持ちよいし、36分というサイズも丁度いい長さでよく聴きました。ちなみに"Losing You (Prod. by Mike Din)"には、呼ばれてないのにカンヌへ行った事でお馴染み、カンヌ木村さんことキムタクのボソっとしたモノローグも入ってます。わーいうれしいな。
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Ango - True Blue
18. Claudio PRC / Inner State [Prologue]
2012年は、ミュンヘンのミニマルレーベルPrologueから3人のイタリアンがアルバムをリリースした訳ですが、その1角であるイタリアの新鋭Claudio PRCのデビューアルバムがこちら。本作は他の2人の作品とは性質が異なり、暗い地下室に鳴り響くインダストリアル指向なサウンド。硬質なミニマルテクノではあるものの空気の流れを感じる様なウワモノの効果もあって、あまりハードな音を出さない所はレーベルカラーなんでしょうか。緻密につくられた感触の音響効果も含めて、実力の高さを感じる1枚です。
17. Monolake / Ghosts [Imbalance Computer Music]
Robert Henkeによる音響系ミニマル・ダブ・ユニット、Monolakeの8作目となるアルバム。本作では「蒸し暑いジャングルを表現している」との事でしたが、聴いてみるとそこには金属質の異様な世界が広がっており、機械仕掛けのなんだか怖くて嫌らしいジャングルに迷い込むハメに。聴いているとなんとなく疲れるので下半期はあんまり聴いてないんですが、この緊張感みなぎる空間演出はやはり素晴らしく圧倒されてしまう。前作『Silence』を含む3部作らしいので次の最終作を楽しみに待ちたい。
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Monolake - Discontinuity
16. Raime / Quarter Turns Over A Living Line [Blackest Ever Black]
ダークなものが続いておりますが、その極地みたいな作品がこちら、Blackest Ever Blackが送るUKの2人組Raimeの1stフル・アルバム。最初から最後まで暗黒に包まれておりまるで救いがない…。RAのレーベルインタビューでは真剣にフォローしていればユーモアが分かるみたいな事書いてあった気がするけれど、それはどこですか。明らかにバッドエンドっぽい最終トラックの事ですか、それとも聴いているとなんとなく中二臭いイメージが浮かぶところですかね。まあそんな駄々をこねたくなる作品だけど、物凄い音響効果や地を割る様な低音が入っている訳ではないので聴きやすく、それでいて強烈なイメージが残る印象的な作品でした。しかし家や電車の中でこんなものを聴いている、という行為こそ可笑しな気がしなくもない。
15. Fort Romeau / Kingdoms [100% Silk]
La Rouxのライブでキーボードを担当したりプログラミングをしているらしいUKのキーボーディスト、Mike NorrisによるFort Romeauの1stは、100% Silkらしからぬ洗練された色気のある直球ディープハウス!見逃し厳禁!!(レコ屋コメント風) 個人的には昨年後半辺りはもう100% Silkはお腹いっぱい感がありましたけど、上半期にこの作品をリリースした功績は評価している(なぜか上から目線) ちょっと短めだけど、2012年は36~7分のアルバムに良作が多かった気がしますね。年々短い作品が目立つのも、CDという容れ物から解放された証か。これも時代の流れという事なのでしょう。
14. Ricardo Villalobos / Dependent And Happy 1-3 [Perlon]
チリ出身のミニマリスト、Ricardo Villalobosのアナログ3部作。なんだかよく分かんないけれど、キャッチーでノリがよくて中毒性のあるヴィラロボスらしい作品です。1はらしい変な声ネタに変なビート、2は硬め、3は美麗な長尺アンビエントものと性質が異なっており、クスリでお花畑になってた人が、段々抜けてきて真面目に妙な事を言い始め、終には悟りの心境(電波入り)に至る。という脳内ストーリーを作って聴いている。まあアナログ5枚組で2時間超は長いので、ミックス仕様でサクッと聴けるであろうCD盤でもよかったかも。あと他に感動したのは、レコード盤にホコリ1つすら付いてなかった事ですかね。
13. Efterklang / Piramida [4AD]
デンマークのオルタナティブなエレクトロニックバンド、Efterklangの4作目。ノルウェーの無人島にある、人の居なくなったピラミダという街でフィールド・レコーディングを行い制作されたという本作は、しんみりと寂しげな雰囲気なんだけど、でもどこかユーモラスで暖かみが感じられる作品。音作りに拘って洗練された楽曲は、今までのこの人達にはないパーソナルな響きを伴ったサウンドに仕上がっており私的にツボでした。アートワークも素敵。ホステスクラブウィークエンダー行っておけばよかったなあ…。
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Efterklang - Sedna
12. Barker & Baumecker / Transsektoral [Ostgut Ton]
世界一のクラブ。と名高いベルリンのクラブBerghainのレジデントを務める
、Sam Barker & ND_Baumeckerによる1stフルレングス。この作品のいいところは、 バキバキのトランシー (でもないか…) なものからBerghain風ブリアルみたいなものまで、 いろんなスタイルを取り入れながらもソリッドな質感を損なっていなくて、アルバムとしてきちんとまとまっている所ですかね。中でも9分を超える 壮大な "Spur"はパーソナルな感触を持っており 、テクノをアルバムとしてリリースする事にしっかりと意味を持たせる様なナイストラック 。冬の空気の様に凛とした強度を持った作品です。
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Barker & Baumecker - Spur
11. Jessie Ware / Devotion [Island]
クラブミュージック界隈から出てきた歌姫Jessie Wareのデビューアルバム。特に感想変わらずなので省略(
過去記事 ) アメリカ進出おめでとうございます。
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Jessie Ware - Wildest Moment
10. Legowelt / The Paranomal Soul [Clone Jack for Daze Series]
オランダのアナログシンセマニア
、Danny Wolfersさんが今年リリースした Legowelt名義の最新作。とりあえず、この人絶対ばかでしょ。90年代初期(或いはもっと以前か)を思わせる古いエレクトロ、ハウス、デトロイト・テクノ愛に溢れた本作は、巷の現代的でお洒落なトラックとはまるで無縁であり、実に泥臭く、確実にモテない部類のサウンドだ。
"On a Cold Winters Day" などは、古いビデオゲーム・ミュージックの様な音色とあまりにもクサすぎるメロディに吹いてしまう。「どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!」と思う一方で「いいぞもっとやれ」と応援したくなる素晴らしい作品です。
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Legowelt - Elements of Houz Music
09. Kidkanevil & Daisuke Tanabe / Kidsuke [Project:Mooncircle]
StatelessのKidkanevilとDaisuke Tanabeによるコラボユニットのデビューアルバム。主な感想は(
過去記事 )に任せるとして、このナードなごった煮IDMも、ダブステップやらを通過した今だからこそ新鮮に感じるのかな等と思いながらよく聴きました。Project:Mooncircleの10周年記念コンピレーションを買っていなかったら、出会ってなかったであろう1枚ということもあり、印象に残っている作品です。
08. Holy Other / Held [Tri-Angle]
Tri Angleを代表する謎の覆面プロデューサー、Holy Otherの1stフルアルバム。私はこの人に関しては、ウィッチハウス云々というよりも、スモーキーなR&Bボーカルネタの扱いが気に入っているので、表題曲"Held"には完全にやられてしまった。幻想的、というより幻覚的で、白昼夢を見ている様な気分になれる美しい作品です。まあ正直なところ、完成度高いけどもっと出来るんじゃないかな。という印象もあるので今から2ndに期待しておこうと思います。(
過去記事 )
07. Trust / Trst [Arts & Crafts]
ゴシック・シンセポップ3ピース、Austraでやる気なさげにドラムを叩くMaya Postepskiと、ボーカルRobert Alfonsによるカナダ発のダークウェーブ男女デュオ、Trustのデビューアルバム。生ドラムと打ち込みドラムにシンセ、というモロ80'sなディスコ、シンセポップサウンドで去年1番聴いた作品。理由はよく分からないけど後からレコードを買うくらい気に入っています。ロバート・アルフォンスの特徴的で色気のあるダミ声や、2人の駄目人間ぽい退廃的な容姿に惹かれるのかもしれません。ちなみにライブではMayaはあんまり登場しない様です。
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Trust - Sulk
06. Twin Shadow / Confess [4AD]
ドミニカ出身
George Lewis Jr.によるソロプロジェクトTwin Shadowの2nd。昨年はあんまりブルックリンものに食指が動かなかったんですけども、この人は別。グリズリー・なんとかの クリス・テイラープロデュースのメランコリックだった前作『Forget』から、セルフプロデュースに変わった事によって「B級臭さを失わない様にしたい」という悪趣味さが前面に出たのか、よりバカっぽく、 安っぽく、 男臭い(ゲイ臭い?)作品になっている。難しい所は何処にもなく、80's感満載のポップで好感が持てる1枚。難点を挙げるとすると、ライブメンバーのベースが、 間抜けヅラしてたノッポ兄ちゃんからスネ夫ぽい男に変わってしまったとこかしら。もっと売れて大物になって欲しい。
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Twin Shadow - Patient
05. bvdub / All Is Forgiven [n5MD]
Brock Van Weyのアンビエント・プロジェクト、bvdubの最新作。以前ツイッターで"人生に影響を与えた45曲"みたいなお題が話題になってまして、私はといえば「人生に影響受けた曲なんかねーよ。この
ペプシXXXが! 」などと毒づいておった訳ですが、本作の2曲目"Today He Felt Life"を聴いて考えが変わりました。人生に影響を与えるかはともかく、人生の最後にこの曲が流れたら、例えウンコみたいな人生でも「ああ、私の人生も悪くなかったかもな…」と思わせてくれそうな、美しく壮大で物語性に満ちた31分にも及ぶ超名曲。なげーよ、と思うかもしれないけれど、これだけの長尺を苦に感じさせない所も素晴らしいし、たった30分で世界が愛おしく感じられるのだから儲けもの。まあ1時間後にはウンコ氏ねとか言ってるかもしれませんが。
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bvdub - Today He Felt Life
04. Burial / Street Halo/Kindred [Hyperdub]
ブリアルのEP2枚組。今更言う事ないので省略(手抜き)。これがStreet Halo/Kindredでなくて、Kindred/Truantだったら年間1位にしてました、たぶん。ところで、Ashtray Waspの犬の鳴き声にビクッとなるのは私だけですか。
Burial - Ashtray Wasp
03. Silent Servant / Negative Fascination [Hospital Productions]
UKのアンダーグラウンド・レーベルSandwell Districtや、ダークウェーブ・デュオTropic of Cancerでも活躍するJuan Mendezによる、Silent Servant名義でのデビューアルバム。 36分とコンパクトな作品なのですが、壮大なアンビエンスを感じるオープニング・トラック"Process (Introduction)"、不安を煽る"Moral Divide"、ジュークも真っ青なハードテクノ"The Strange Attractor"など、この人の音楽的背景が窺い知れるダークでハードで多彩なトラックは聴きごたえたっぷり。
2012年はモノトーンジャケ、収録時間36分の作品にハズレがなかった気がします。
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Silent Servant - Utopian Disaster
02. Dino Sabatini / Shaman's Paths [Prologue]
イタリア出身現ベルリン在住のプロデューサー、Dino Sabatiniのデビューアルバムは、これまたミュンヘンのキテるレーベルPrologueから。ジャケット画像やタイトルどおりトライバルな要素を持ってはいるのですが、アフリカンビートをチャカポコ鳴らしただけ…みたいなものとは異なり、ちょっとしたSEやシンセを含めた全体のグルーブ感で民族的な雰囲気を感じさせる作風。このバランス感が絶妙でディープかつ渋さを感じる素晴らしいミニマル・テクノに仕上がってます。
おどろおどろしいビートが鳴り響く、ダウンテンポなアンビエント系トラック"Apparition"~"Prophecy"、徐々にBPMが上がってきて緊迫感と幽玄さが加わる中盤の"Ritual"~"Vision Quest"、収束へ向かって解放感が溢れだす"Parallel Perception"~"Icaro"と構成も巧み。まあやっぱりこういうミックス仕様のアルバムってのは没入感が違うというか、いつまでも繰り返し聴けてしまいますね。これはよすぎて危険。
01. Voices From The Lake / Voices From The Lake [Prologue]
今年はやっぱりコレに尽きる。という訳でミュンヘンのミニマル・レーベルPrologueの記念すべきCDアルバム第一弾となった、Donato Dozzy + Neelによる、Voices From The Lakeの1stフルアルバム。
本作は静謐で自然な感触のアンビエント・テクノで、率直に言って地味なのですが、民族的で多彩なパーカッションに淡く重なるシンセ、人や虫の声、或いは水の音といったサンプルが有機的に絡み合うトラックはアルバム全体で1曲かの様な一貫性があり、体内へじんわりと浸透してきます。聴いていると、いつしか深い森にたたずむ湖へと導かれてしまうことでしょう。まあアルバムというフォーマットでベストを選ぶとなると、世界観やストーリー性みたいなものにも着目したい、と思ってるのですが、そういう点で私が今年聴いた作品の中ではちょっと抜けてたかなぁと。
2012. 年間ベスト40リスト
Voices From The Lake / Voices From The Lake [Prologue]
Dino Sabatini / Shaman's Paths [Prologue]
Silent Servant / Negative Facination [Hospital]
Burial / Street Halo/Kindred [Hyperdub/Beat Records]
bvdub / All Is Forgiven [n5MD]
Twin Shadow / Confess [4AD]
Trust / Trst [Arts & Crafts]
Holy Other / Held [Tri Angle]
Kidkanevil & Daisuke Tanabe / Kidsuke [Project:Mooncircle]
Legowelt / The Paranomal Soul [Clone Jack for Daze Series]
Jessie Ware / Devotion [Island]
Barker & Baumecker / Transsektoral [Ostgut Ton]
Efterklang / Piramida [4AD]
Ricard Villalobos / Dependent And Happy [Perlon]
Fort Romeau / Kingdoms [100% Silk]
Raime / [Blackest Ever Black]
Monolake / Ghosts [Imbalance Computer Music]
Claudio PRC / Inner State [Prologue]
Ango / Serpentine [LuckyMe]
Lana Del Rey / Born To Die [Interscope, Polydor, Stranger]
John Talabot / Fin [Permanent Vacation]
Shed / The Killer [50 Weapons]
Purity Ring / Shrines [4AD]
The Killers / Battle Born [Island]
The xx / Coexist [Young Turks]
Alex Winston / King Con [V2 Coop]
Tinashe / In Case We Die [Self-Released]
Vessel / Order Of Noise [Tri Angle]
Chairlift / Something [Columbia]
Dean Blunt and Inga Copeland / Black Is Beautiful [Hyperdub]
Andy Stott / Luxury Problems [Modern Love]
Lil B "The Based God" / Faces of Lil B Vol.2: Based God Is Eternal [Mishka]
Evian Christ / Kings And Them [Tri Angle]
Fist Aid Kit / The Lion's Roar [Wichita]
Delano Smith / An Odyssey [Sushitech]
Sigha / Living With Ghosts [Hotflush]
Delilah / From The Roots Up [Atlantic]
Mala / Mala In Cuba [Brownswood]
Alcest / Les Voyages de l'âme [Prophecy]
Taylor Swift / RED [BIg Machine]
あとがき的なの
てな訳でこんな結果に。昨年買った作品はシングル、EP、アルバム合わせて大体190枚で、ミックステープを入れると333枚、この年間ベストの母数は220枚ほどでした。やっぱり昨年と同じく下半期はテクノ系に偏ったというか、主にUSインディにあんまり惹かれなくなったこともあり大分偏ってます。まあいまはテクノ系が面白く感じるので仕方ない。とりあえず私らしくミーハーな結果にはなったかな。
あとは色んな人が言ってますけど、2012年はモノトーンジャケが熱かったですね。それと収録時間36~7分の作品もハズレが無かった気がします。まあ気がするだけかもしれませんが。
レーベルでは見ての通りPrologueがツボでした。EPばかりなのでベストには入ってないですが再始動したR&S傘下のアンビエントレーベルApollo。センスの良さを見せつけているTri Angle。質の高いリリースを続けるインディミュージックの総本山4AD。独自の立ち位置が面白いProject:Mooncircle辺りが印象に残ってます。
とりあえず、新年最初の課題としてはフランク・オーシャンの良さを理解することですかね。2013年はもうちょっとメインストリームの音楽も聴きたいなあと思っているので、まずはカーリー・レイ・ジェプセンでもレンタルしてみようかしら。ところで出す出す詐欺のマイブラ、アバランチーズ、BoCやら、Space Dimension Controllerとかレベッカ・ブラックさんのアルバムはいつ出るんでしょーか。
http://65record.blogspot.com/2013/01/2012-4010-201.html 2012. 年間ベスト・アルバム 40+10 [20位~1位]
関連記事 : 2012,
Voices From The Lake,
年間ベスト